【ヴェルコール作『海の沈黙』 -1940年代の第二次世界大戦下における仏独関係の考察の試み-】

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 昨年2018年10月で、慶應生活も二年目に入りました。
入学の動機は、メシアン作曲《神の現存の三つの小典礼曲》(1943-44)を研究する過程で、この作品の書かれた1940年代の第二次世界大戦下に於けるメシアンのナチスの捕虜収容所幽閉時代を、背景としてもっと深く知らなければならないと感じた事も一因です。
捕虜収容所内のドイツ人看守は、必ずしもメシアンに対して敵対した存在のようには思えない配慮を感じます。
この事は、必ずしも仏独二国間が双方に一枚岩となって互いを憎しみ合っていたかといえば、恐らく民間人レベルではそうではなかったのではないか?と感じられます。
 そしていざ、慶應二年次生になった辺りから、上記についての文献調査の準備がいよいよ始まってゆきました。
 このテーマで初めに考えたのは、「文学」及び「フランス文学概説」に於いて、仏のレジスタンス文学を探るという試みです。
 ここでは、ヴェルコール作『海の沈黙』(1941)、そしてラリー・コリンズ&ドミニク・ラピエール作『パリは燃えているか?』(1966)を題材に、両国間の歴史的背景を視てゆきたいと考えています。
 そこで、昨日『海の沈黙』の映画DVDと小説を視ていった次第です。
小説は日本語訳、映画は仏語の台詞と日本語字幕によるものです。
あらすじは以下です。
 「と或るフランスの田舎町に、宿を探しに来たドイツ人将校が寄宿するようになる。彼はフランス文化とフランス人に敬意を持っており、毎晩自室からリビングに降りてきては仏の文化人を褒めたたえ、いつの日かドイツとフランスが統合する日を夢想する。しかし、ナチスの残虐な政策のもと、占領下におかれている仏人の家主の叔父と姪は無言の抵抗を貫く。
 そんな或る日、ドイツ人将校は仲間からナチスの大量虐殺の事実を聞かさる。「仏と独の融合など、絵空事だ、フランスの精神を叩き潰す事が我々ドイツ人の義務だ。」と、仲間に嘲笑される。失意のドイツ人将校は、仏民家の家主たちに別れを告げ、最前線への転属希望を受理され、戦地へと発ってゆく。最初で最後の会話、「Adieu…(アデュー)」の言葉を交わして…。」
 この作品の映画と小説を読み、そこで感じた事は以下です。
 日本語訳小説を読むと全く微妙なニュアンスの区別が見落とされがちなところですが、仏語原語の台詞では、ドイツ人将校は「最敬語の仏語」を話している事が、先ず大きなインパクトを持って感じられます。
ドイツ人の彼自身は、元々作曲家であり、父親の影響でフランス文化に敬意を払っていた。
しかし、仏人の家主と姪は彼には好意を抱きながらも、両国の関係性、ナチスの非道性に無言の抗議をせざるを得なかった。心の奥では、礼儀正しい青年を無視する事に罪悪感を覚えながらも…。
そうした「沈黙」の中にも、相互の心の葛藤や親和性をそこかしこに見る事が出来、個人的には心に突き刺さるものがありました。
 そのドイツ将校は、この戦争は仏独両国の「結婚」に繋がると夢想していたのに、二週間の休暇中に生まれて初めて赴いたパリで、実はナチスは仏人捕虜を銃殺していた事実を知った。欧州に太陽は昇ることはないと悟り、戦地の最前線へと転属を希望し、仏人の民家を去っていった。
両者をつないだ最初で最後の会話は「Adieu…」。仏語でこの言葉は、二度と合わない者同士しか使わない言葉です。
あれほど丁寧語の仏語を話し、フランスを愛し相手に敬意を払ったドイツ人と、会話をする事すら許されず、互いに好意を持ちながらも、すれ違ってゆかなければならなかった両者に、心がえぐられる想いがし、琴線に触れ、私は涙しました。
 そして同時に、ナチスの非人間的な政策にメシアン自身も巻き込まれ、極寒の捕虜収容所で過ごさざるを得なかった約1年間という時間に、想いを馳せました。
そこでは、御承知のように《時の終わりの為の四重奏曲》(1941)を作曲し演奏仲間と初演し、人種の垣根を越えて、捕虜たちに生きる希望を与えた大きな事柄がありました。
 第二次世界大戦下の仏独関係は、自ら志願して文献などを調べているつもりですが、やはり実際に事実関係を目の当たりにする事は、それなりの心のおののきが生じます。
こうした事柄を上手く説明するには、もう少し心の整理が必要でしょう。
「文学」及び「フランス文学概説」のレポートに落とし込む作業は、あと3週間でやらなければならず、余り時間もありませんが…。
 それでも、少しずつ心を鎮めて各々の事象をまとめてゆく事を試みたいと思います。

Juia.T.A
Le 4 fev. 2019 19h44

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