【『大作曲家の信仰と音楽』P.カヴァノー著 : メシアンについての記述箇所への一考察】

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2013_11_11_大作曲家の信仰と音楽

以前からこの著書は知っていましたが、メシアンについての記述は
10ページ弱しかなく、且つ内容は「信仰者の視点から見た作曲家のうちの一人」として
列挙されているくらいの扱われ方です。
従って、氏の創作活動全てをダイジェストし切れていないように思い、
普段はほぼノーマークで来た文献でした。
しかし、カテキズムの勉強を始めた今、自分自身も信仰者の
準備段階に入ったのを機に、何気なく書店で再度、手に取ったのを切掛けに、
この10ページを精査しよう、との思いに向かいました。

精読し始めますと、記述内容にやや事実と異なると思われる個所も
やはりながらあります。
《Poemes pour mi -ミの為の歌-》(1936)創作は、先妻クレール・デルヴォスに
励まされて、「結婚の霊的な意義を『褒め称えている』。」(P237 L17-18)と在りますが、
わたくしの考えは、やや異なります。
この6月くらいに、わたくし、この《poemes pour mi》の全9曲のテクストを
訳してみた事は、先日書き記した通りです。
邦訳資料では多くがこの連作歌曲を「新婚当時の幸せな生活を詠ったもの」
とありますが、どうもメシアン創作のテクストからは、
そうは思えない個所が散見されました事も、先般書かせて頂きました通りです。

そういった著書の中でも、一つ眼に留まった事柄があります。
現在わたくしが行っております《神の顕在の三つの小典礼》(1943-44)に関して、
初演当時に猛批判が上がったという、いわゆる「典礼論争」事件の記載です。
《三つの小典礼》のスコアの冒頭に、メシアン自身によって書かれた解説があり、
その部分を訳しても、やはりこうした「典礼論争」が在った事は間違いありません。
しかし、事の起こった経緯についての出典元を血眼になって探しておりますが、
邦訳資料にはどうも確固たるものを上手く見つける事ができません。
この著書でもその「出典元」となるに足るだけの記述はありませんが、
興味をひかれるのが、以下の記述です。

「彼の音楽は生涯で何度も、信者、未信者の双方から肘鉄を食らわされてきた。
前者は現代音楽の挑戦に対して不慣れであり、後者は彼が伝えようとする
聖なる真理になじめないためだ。」(P237 L7-9)


 「信仰に満ち溢れたテクストは世俗の批評家にまったく顧みられず、
一方聴衆の中の信者は不協和音だらけの音楽に不快感を抱いた。」(P238 L17-18))

これは、全てで無いにしろ、概ねうなずけます。
細かい事を云えば、上記二つの相反する双方の意見は、
或る意味で合っていて、或る意味では違うのだけれども、
大筋で言えば、こう言う事でしょう。

1. カトリック信者の側はバッハやメンデルスゾーンなどの典礼作品に
耳が慣れているのならば、メシアンの作風は奇異で聴き慣れない音と感じたとしても、
可笑しくはないでしょう。

2. 一方で、わたくしなどはこちら側の人間ですが、現代音楽から入った切掛けで
カトリック信仰と対峙する事となった人にとり、ミサに求められている典礼音楽とは、
如何なるものなのか、またキリスト教が布教しようとしている教理とは、
如何なるものなのか、理解が追い付かない。

カトリシズムについては、わたくし自身、未だ雲を掴むような感覚の中、
手探りで模索している最中であります。

ここで上記の引用の中で「不協和音だらけの音楽」と言わしめた
作品についての補足を、若干させて頂きましょう。
「不協和音だらけ」と書かれながらも、実はこの3曲共に「A dur」の枠組みの中で
受け取れます。
そこに「M.T.L旋法」が随所に内包され、その響きが非常に「ステンドグラス的」
色彩感をもたらし、わたくしには得も言われぬ「カトリック的典礼音楽」に
聴こえます。
その事も魅力の一つですし、メシアン自身の創作であるテクストも、非常に稀有な
世界観を醸し出しています。

- 一人、神に祈るメシアン。
その祈りに答える神の調べが彼の内面で拡がってゆき、
彼は神と一体となる夢想を抱く。

そうした夢想的な内容を持つ第一曲目も、大変美しい幻想に溢れていますが、
しかしそれ以上に心を動かされたのが、第三曲目です。
「神はここにいる、全てのものの内に存在している」、との趣旨が、
三部形式冒頭では旋律を持たないリズムのみで朗唱され、
次のパーテーションでは、色彩の話を伴いながら高らかに歌い上げられている。
また、素材展開も3曲中、最も巧みになされている。
この作品について、是非とも論文に論述したく思っております。

話がそれましたが、この『大作曲家の信仰と音楽』(P.カヴァノー著)に、
また一つ触発されてきました。
だんだんと、素材が整いつつあり、良い手応えが感じられ、嬉しく思います。
論文執筆に、意外ながらも良い参考資料として付け加えられそうです。

Julia.A

Le 11 Novembre 2013 14h08

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